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東京高等裁判所 平成11年(行コ)224号 判決 2000年4月13日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し平成二年一月三一日付けでした控訴人の昭和六一年分及び昭和六二年分の所得税の過少申告加算税の各賦課決定処分(昭和六一年分等の本件賦課決定処分)を取り消す。

3  被控訴人が控訴人に対し平成三年二月二七日付けでした控訴人の昭和六三年分の所得税の更正処分のうち納付すべき税額一三四四万七七〇〇円を超える部分及び加算税賦課決定処分(ただし、裁決により一部取り消された後のもの)(昭和六三年分の本件更正処分等)を取り消す。

4  被控訴人が控訴人に対し平成三年二月二七日付けでした控訴人の平成元年分の所得税の更正処分のうち納付すべき税額一八二万八八〇〇円を超える部分及び加算税賦課決定処分(ただし、裁決により一部取り消された後のもの)(平成元年分の本件更正処分等)を取り消す。

二  被控訴人

控訴棄却

第二事案の概要

一  本件は、控訴人が、被控訴人がした昭和六一年分等の本件賦課決定処分、昭和六三年分及び平成元年分の本件更正処分等は違法であると主張して、これらの処分の取消しを求めた事案である。原判決は、控訴人の請求のうち、昭和六一年分等の本件賦課決定処分の取消しを求める訴えを却下し、その余の請求を棄却したので、これに対して控訴人が不服を申し立てたものである。

二  右のほかの事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決の該当欄記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の当審における主張)

1 原判決は、控訴人が被控訴人に提出した平成二年二月二一日付け嘆願書(本件嘆願書)は昭和六一年分等の本件賦課決定処分に対する異議申立てではないと認定したが、誤りである。本件嘆願は、実質上、異議申立てである。

2 控訴人とAは、平成二年九月一一日、控訴人がAの金融機関に対する借入金債務四五〇〇万円を引き受ける旨を含む裁判上の和解をした。原判決は、この引受債務を平成元年分の必要経費とは認めなかった。しかし、Aの右債務は、和解成立前に発生していたのであるから、控訴人の引受債務は、平成元年分の必要経費として認められるべきである。

3 原判決は、昭和六〇年から昭和六二年までの支払利息を昭和六三年分の必要経費とは認めなかった。しかし、控訴人は、昭和六〇年から昭和六三年にかけて借入金の利息合計四〇〇〇万円を支払った。審査庁は、このような過去の支払利息を後年度に繰り越して必要経費とすることを認めていた。また、控訴人は、Aの昭和六二年及び昭和六三年における金融機関に対する債務不履行や租税・賃料の滞納により、一億八〇〇〇万円の損害を受けた。したがって、以上の合計二億二〇〇〇万円を繰り越して、昭和六三年分の必要経費として認めるべきである。

4 原判決は、昭和六三年分及び平成元年分の営業所得等の金額の算定につき、被控訴人主張の推計方法(比準同業者の平均経費率により必要経費の額を算定)は合理性があると判断したが、誤りである。比準同業者の金利経費の全経費に対する割合により必要経費の額を算定することが合理的である。また、被控訴人主張の推計方法は、被控訴人管内の同業者のほか、隣接税務署管内の同業者の経費率も基礎にしているが、被控訴人管内の同業者だけを基礎にすれば充分である。

5 原判決は、昭和六三年分の分離長期譲渡所得の金額の算定につき、確定申告書に、租税特別措置法三七条一項の買換特例の適用を受けようとする旨の記載(同条七項により記載すべきこととされている。)がなかったから、買換特例の適用はないと判断したが、誤りである。確定申告書は、被控訴人の職員Bが作成したものである。その後、控訴人は、更正の請求をした。買換特例の適用が認められるべきである。

6 控訴人は、所得の隠ぺい、仮装などしていない。昭和六三年分及び平成元年分の重加算税賦課決定は、違法である。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の請求のうち、昭和六一年分等の本件賦課決定処分の取消しを求める訴えは不適法であり、その余の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次に記載するほか、原判決の理由記載と同一であるからこれを引用する。

1  控訴人の当審における主張1について

原判決挙示の証拠によれば、原判決の第三の一1に記載の事実が認められる。この事実によれば、本件嘆願書の内容等は次のとおりであった。

被控訴人は、平成二年一月三一日付けで昭和六一年分等の本件賦課決定処分をし、その通知書は、同年二月一日、控訴人に送達された。控訴人は、被控訴人に対し、昭和六一年分ないし昭和六三年分の所得税の更正の請求書とともに、平成二年二月二一日付けの本件嘆願書(甲四の1)を提出した。本件嘆願書には、「平成二年一月三一日付昭和六一年、六二年、六三年分所得税の加算税の賦課決定の通知書を戴きましたが下記理由により納付を下記期日迄御猶予下されたく嘆願いたします」「猶予期間 平成二年四月末日 理由1 本書と同時同封でなされた更正の嘆願二通、更正の請求一通は、上記期日迄に定まる見込があるので、それ以前に支払うと巨額のため、事業資金の欠乏を来たし業務が維持できない。2 必要とされるなら、当加算税と併せ担保を差入れます」と記載されている。その後、控訴人は、平成三年四月七日、被控訴人に対し、昭和六一年分等の本件賦課決定処分に対する異議申立てをしたが、平成四年四月八日、不適法として却下された。

この事実によれば、本件嘆願書は、控訴人が、被控訴人により昭和六一年分等の所得税が減額されることを期待し、それまでの間、昭和六一年分等の本件賦課決定処分による加算税の納付を猶予してもらうことを求めたものにすぎず、本件賦課決定処分に対する不服を申し立てたものではない。したがって、本件嘆願書は、本件賦課決定処分に対する異議申立てと認めることはできない。

2  控訴人の当審における主張2について

原判決挙示の証拠によれば、原判決の第三の二5(一)に記載の事実が認められる。この事実によれば、控訴人がAの債務を引き受けた経過は、次のとおりであった。

控訴人は、平成六〇年三月一四日、Aに対し、茨城県土浦市<以下略>ほか三筆の土地を賃貸した。その後、Aは、右土地上に建物(本件建物)を建築した。控訴人は、Aの金融機関からの借入金債務について保証し、また、右土地の一部に、金融機関のために抵当権を設定した。Aは、昭和六〇年一一月一日、控訴人に対し、金融機関に対する借入金の返済を遅滞したときは、本件建物を譲渡する旨約し、同年一二月七日、本件建物につき、控訴人を権利者として売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記をした。Aは、昭和六二年五月ころから、借入金の返済を怠るようになった。控訴人は、平成元年七月五日、Aに対し、本件建物の明渡しを求める訴えを提起した。控訴人とAは、平成二年九月一一日、本件建物の所有権が控訴人に移転したことを確認し、Aが控訴人に対し仮登記に基づく本登記手続をすること、Aが控訴人に対し直ちに本件建物を明け渡すこと、控訴人は、Aの金融機関に対する借入金債務四五〇〇万円を引き受け、Aには負担させないこと等を内容とする裁判上の和解をした。

この事実によれば、控訴人がAの借入金債務を引き受けたのは、平成二年九月一一日の裁判上の和解によるものである。したがって、この引受債務が右和解成立前である平成元年分の必要経費となるものとは認められない。Aの借入金債務の発生が和解成立前であっても、控訴人が右債務を引き受けたのは平成二年である以上、右認定を左右するものではない。

3  控訴人の当審における主張3について

甲二二の一によれば、控訴人は、常陽銀行土浦支店から手形貸付の方法で金銭を借り入れていたこと、この借入金の支払利息は、昭和六〇年が約五三六万円、昭和六一年が約六三七万円、昭和六二年が約七九四万円、昭和六三年が約三二二万円であったことが認められる。

しかし、右の借入金が控訴人の事業のためのものであったと認めるに足りる証拠はない。したがって、右借入金についての支払利息が必要経費となるものであると認めることはできない(控訴人自身も確定申告書にこれらの支払利息を必要経費として記載していなかったものである。)。また、昭和六〇年ないし昭和六二年における支払利息は、その後の昭和六三年分の必要経費となるものではない。なお、被控訴人又は審査庁が過去の支払利息を後年度に繰り越して必要経費として認める旨述べた事実を認めるに足りる証拠はない。

また、控訴人が、Aの金融機関に対する返済遅延や租税等の滞納により、一億八〇〇〇万円の損害を受けた事実を認めるに足りる証拠はない。なお、前記2で述べたとおり、控訴人は、Aの借入金債務四五〇〇万円を引き受けたものであるが、これは、平成二年の裁判上の和解によるものであるから、それより前の年分の必要経費となるものではない。

4  控訴人の当審における主張4について

昭和六三年分及び平成元年分の営業所得等の金額の算定について、被控訴人が主張する推計方法は、被控訴人が反面調査等によって把握した収入金額を基礎として、必要経費の額を比準同業者の平均経費率により推計で算出するというものである。この推計方法自体は、合理的なものである。

そして、原判決挙示の証拠によれば、原判決の第三の二3(四)に記載の事実が認められる。この事実によれば、推計の基礎とされた比準同業者は、被控訴人管内とそれに隣接する水戸税務署、竜ヶ崎税務署及び下館税務署の各管内で、控訴人と同一の不動産仲介業を兼業している不動産売買業者であって、かつ、収入金額が控訴人と類似しているものである。しかも、比準同業者は、業種、収入金額のほか、青色申告者であること(所得金額につき係争中の者は除外)など一定の基準に適合する者を機械的に抽出して求められたものである。このように、比準同業者は、業種、事業場所、事業規模の点で控訴人と類似性があり、また、その抽出過程に恣意の介在する余地はなく、収入金額、必要経費の額の客観性も担保されている。したがって、右比準同業者の平均経費率を用いて推計により控訴人の必要経費の額を算出することは、合理的なものであると認められる。

控訴人は、被控訴人管内の同業者の金利経費の全経費に対する割合により必要経費の額を算出すべきである旨主張する。しかし、借入金に対する金利の額は、借入先や借入条件によって異なる。また、自己資金が多く借入金が少ない事業者もあり得る。これらの点を考えると、一般に、金利経費の全経費に占める割合が各事業者を通じてほぼ一定の範囲内に収まる普遍的なものであるとの保証はない。したがって、控訴人主張の推計方法が合理的であるとは認められない。

また、比準同業者の数が多いほど、各事業者の特殊事情が薄められ、平均経費率の客観性が担保されるから、被控訴人管内の事業者だけではなく、これらの事業者とほぼ同様の事業環境にあると考えられる隣接税務署管内の事業者をも加えて平均経費率を求めることは合理性を有する。なお、乙二四によれば、被控訴人管内に限定すると、比準同業者は、昭和六三年分については二者、平成元年分については一者しかいなかったことが認められる。したがって、控訴人主張のように被控訴人管内の事業者だけに限定すると、かえって不合理な結果となる。

5  控訴人の当審における主張5について

控訴人主張の買換特例の適用を受けるためには、確定申告書に右特例の適用を受けようとする旨の記載をしなければならない(租税特別措置法三七条七項)。しかし、控訴人が提出した確定申告書(乙二九)には、その旨の記載がない。したがって、控訴人は、買換特例の適用を受けることはできない。

控訴人は、確定申告書は、被控訴人の職員が作成したものであり、また、控訴人は後日更正の請求をした旨主張する。しかし、控訴人は、原審において、控訴人作成名義の確定申告書(乙二九)の成立を認めているところである。被控訴人の職員が控訴人の意に反して右確定申告書を作成したとの証拠はない。また、控訴人は、平成二年二月二三日、被控訴人に更正の請求書(甲二一の3、4)を提出したが、これにも買換特例の適用を受けようとする旨の記載はない。したがって、控訴人は、右の更正の請求をしたからといって、買換特例の適用を受けることができるようになるわけではない。

6  控訴人の当審における主張6について

原判決挙示の証拠のよれば、原判決の第三の二3(二)(1)、二3(三)(1)及び四1に記載の事実が認められる。この事実によれば、控訴人は、昭和六三年分の所得税について、Cに対する土地の売買につき代金を減額した虚偽の契約書(乙二)を作成したこと、Dに対する土地の売買につき売主をEとする虚偽の契約書(乙四)を作成したこと、平成元年分の所得税について、Fに対する土地の売買につき代金を減額した虚偽の契約書(乙一一)を作成したこと、平成元年一二月二三日の株式会社村山商事に対する土地の売買につき平成二年一月八日付けの虚偽の契約書(乙一五)を作成したこと、Gに対する土地の売買につき売主をHとする虚偽の契約書(乙一七)を作成したこと、控訴人は、これらの虚偽の契約書を被控訴人に提示したことが認められる。

そうすると、控訴人は、昭和六三年分及び平成元年分の所得税について、基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし又は仮装して、これに基づいて申告したものと認められる。したがって、本件の重加算税賦課決定に違法はない。

以上のとおりであって、控訴人の主張は、いずれも採用することができない。

二  したがって、控訴人の請求のうち、昭和六一年分等の本件賦課決定処分の取消しを求める訴えを却下し、その余の請求を棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 菊池洋一 裁判官 江口とし子)

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